ICUから病棟に戻り、次の日から点滴台を押して歩行訓練がスタートする。最近は術後すぐに動き出す方が回復が早いということになっているのだ。幸い背中に入っている麻酔のお陰で痛みはほとんど感じることはない。強いて言えば、ベッドで横になろうとする時に自分の頭の重さを支えるときお腹割れるほど痛い(いやホンマに割れてますけど…)のだけど、その度に意外と脳みそが積まってるんじゃないのと思ったりしていたのだった。いや人間の身体の回復力ってなかなか凄いです。
入院するときに決めていることがある。それはテレビカードは買わないということだ。もとより生まれながらのテレビっ子なので、下手すりゃずーーっとテレビ漬けになっちゃいそうなので面白そうな本を買い込んで臨むことにしているのだ。まぁ暇つぶしですけど。
かなり昔に入院したときに、夢枕獏の「神々の山嶺」というエベレストが舞台の小説を持ち込んだ時には、ベッドの回りをカーテンで仕切られた空間がテントの中のように感じられ、デスゾーンと呼ばれる酸素の薄い標高8000mを越えた世界で展開されるお話しに息苦しくなったことがある。心拍数モニターがついていたりしたら、きっと看護師さんが走ってきたことだろう。読む本は選ばなきゃいけません。
そんなわけで暇に任せて読書にいそしみ、運動もしないと筋肉が落ちるのではないかとスクワットをしてみたり、窓の外に広がる山並みを眺めたりまるでリゾートのような生活を楽しませてもらっていたのだった。ただし、まだ体中から管が出ていたり、しばらくは食事もとれずに点滴で栄養補給したりだったのでリゾートは明らかに言いすぎなのだけれど、手術も成功し不安がひとつなくなったことで気持ちがぐっと明るくなったことは確かなのだ。もちろんガンなので再発することもあるかも知れないがそれまでの執行猶予、今しかできないことをわがままにしてもいいんじゃないかと背中を押してくれたような気がした。そんな気分で眺める山並みは緑が濃くなり初夏が近いことを告げていた。さて夏には何をしようかな。

