その⑬「そして放免…」

腹だけフランケン

もちろんなかなか大きな手術をしたわけだから、しばらくはいろいろとたいへんだった。微熱が下がらなかったり、絶食点滴のあとしばらくはうんちが出なかったり、お腹の中に溜まる血を抜くためのドレンが横隔膜に当たって深い息をすると痛かったり、やたらと頭痛がしたりと何らかの症状はあったけど、それぞれに氷枕や薬をつかって乗り切ることができた。頭痛については硬膜外麻酔の副作用ではないかと勝手に思っいていたけど、ひょっとすると今回持ち込んだ本が「現代思想入門」とか「教養として学んでおきたい現代哲学者10人」などが原因ではないかとの指摘もあるが定かではない。

そんなこんなを乗り越えて自由の身になってみると、何だかここにいていいのかという気分になってきた。周りを見渡してみると動くのもままならない方や痛そうに歩いておられる方、車椅子を押してもらっている方などばかりなわけで、いちおうひとりで動け、痛みなく(ホントは少しは痛いけど…)、何事もひとりで出来てしまう金髪のおやじ(髪の色は関係ないけど…)が、のんびり読書に明け暮れていてよいのかと自問してしまうわけだ。貴重な医療資源をこんな馬鹿者のために浪費するわけにはいかない。もっとたいへんな方にこそ振り向かられるべきではないかとちょっと居心地の悪さを感じるようになったのだ。看護師さんの「体調お変わりありませんか?」には、「う~ん、残念なくらい元気です」と申し訳なさそうに言葉を返すのが精一杯なのである。

そんなとき先生が来られて「経過も順調なので、いいタイミングで退院してもらってもいいですよ」とおっしゃった。おおっ!いよいよ先生のお許しも出た。これでシャバの戻れると喜び勇んだものの、しかしこの「いいタイミング」といはいったいどんなタイミングなのか、それは自分自身が達成感を感じた時なのか、はたまた担当看護師が「いい加減にしなさいっ!」と落とした時なのか、あるいは六曜的に大安と一粒万倍日が重なった日なのかとちょっと困惑していると、先生が「…週末とか」と続けてくれたので、「では土曜日でお願いします」とあっさりと退院日が決まったのだった。ちなみにその日は赤口の一粒万倍日だったので、よしとしましょう。